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※この話は三日月の蜜という漫画に収録されている短編を意識したパロディもどきです。
物心ついた時から、俺にはかなり過保護な守護霊が憑いている。
そいつは二十代くらいの若い男の幽霊で頭にはお決まりの輪っかをくっつけ、ワイシャツに黒いネクタイを締めていた。
名前は、……よく知らない。
「律っちゃん、送ってくれてありがとう」
「いいんだ。委員の仕事で残らせちゃったし・・・」
小学校の学級委員の仕事につき合わせて残ってもらった杏ちゃんを家まで送っている時だってそう。
聞こえないのをいい事に、
『うるさい女だな。さっさと帰れ』
なんてぬかしやがる。
「また明日ねー」
杏ちゃんがにこにこ笑って玄関で振り向いた。
それに引きつった笑顔でなんとか手を振って家に入るのを見届けてから、俺はゆっくり帰路につく。
「ちょっと!やめてくださいよ!せっかくいい雰囲気だったのに」
すぐ傍でにがにがしげに杏ちゃんの家の方を見る守護霊に苦情を申し立てるが、
『オコサマがいっちょ前に色気づいてるんじゃねーよ』
そんなにすぐ反撃に転じられると応対に困ってしまう。
いくら小学生といっても恋愛くらい自由にさせてくれてもいいんじゃないか。
「アンタ、せっかく守護霊なんだから恋愛成就とかしてくれないんですか?」
『守護霊の仕事項目に恋愛という事項は無い』
よって俺は超過勤務はしない。
きっぱり言い放った後に、霊はああ思いついたといった風に手を叩いた。
『今度残りそうな時は、俺には優秀な守護霊がいるから放課後残らなくていいと伝えればいい』
「何言ってんですかアンタは」
せっかく杏ちゃんと帰れる機会をみすみすドブになんて捨てられない。
その気持ちが先行して、そうだそうだそれがいい!と頷く霊にあわせる気なんてとても起きなかった。
「どうせ手伝ってくれないのに、なんの解決にもなりませんよ。それに、守護霊なんていったら、絶対に変と思われるに決まってます」
『なんだと?』
頭を抑えて困りはてる俺に、霊の声色が少し変わった。
『なら、俺は変なものなのか?』
試すような言い方に、すこし前の自分の言葉がちくりと心に刺さった。
「そんなこと・・ありませんけど・・・・。あ、いてくれてよかったって思うこともありますよ」
『ふーん』
付け足しのような言葉が不満だったのか、霊はそのままそっぽを向いてしまった。
話しかけようと思ったが、もう家の門の前だったので、何も言わずにそのまま自分の部屋まで上がった。
「明日までの宿題でもやるかなー」
どうせ聞いていないんだろうと、霊の事は気にせず勉強机に教科書を並べて勉強を始める。
ところが、一ページ・・・二ページ・・・と、いつもの半分以下のペースで宿題が全く手につかない。
気にしないようにすればするほど、霊が何をしているのか気になって仕方がないのだ。
「ねえ、・・・います?」
顔は机に向けたままで呼びかけると、声は案外近くから聞こえた。
『なに?』
「アンタは、なんで俺の守護霊なんてやってんですか?」
これは、俺がずっと尋ねたかった質問だった。
「俺のご先祖とか?」
『いいや』
「じゃ、生前うちのご先祖に助けられたとか?」
『いいや』
ふるふるとかぶりを振ると、霊のかけている黒縁の眼鏡もかたかたと連動して揺れた。
「じゃあ、なんで?」
『そうだな、たとえば――』
言葉を続ける彼の様子から、どうやら話す気が無いわけでもないらしい。
俺は、机に向かっていた体を反転させて霊のほうに向けた。
『前世で俺とお前が恋人同士だった、と言ったら信じるか?』
「え?」
『いわゆる身分違いの恋だよ。誰も彼もに反対されて、それでも諦められなくて』
それなら一緒に心中しようかって。
あまりのスケールの展開に俺の頭はついていけなくて、ぽかんと口をあけたままショートしてしまった。
『結局、俺は生まれ変わることも出来なかったから、必死でお前を探したわけだが・・・。ようやく見つけたら、小学生だし。おまけにどっかの女にうつつを抜かしてる』
嫌にもなるな・・・と霊は大げさにため息をついてみせた。
『でも、ま、色恋はタイミングが大事と言うしな。生まれ変わってまた同じ相手に出会っても、また恋に落ちてもらえるとは限らない』
でも、せめてそばにだけでもと思って・・・。
霊はそこで口を噤むと、話に聞き入っている俺の顔をまじまじと眺めてこういった。
『・・・・・なんてな。お前、まさか信じたのか?』
「は?!え?嘘なんですか?」
『はっはっは』
いい話だと思って聞いていたらハメられた!
ニヤニヤと笑う守護霊を蹴っ飛ばしたいが霊なのでそれも出来ない。
渾身の力を込めてにらみつけると、階下から母親の呼ぶ声が聞こえた。
「律!ちょっと手伝って」
『ほら、呼んでるぞ』
「わかってますってば!」
早く早く!と急かす母親に返事を返してから、教科書を閉じて扉を開けた。
霊はついてくる気が無いらしく、部屋の中に浮んだままだ。
その半透明で不安定な姿になぜか胸がざわめく。
彼は嘘だと言ったけど、話をしている時の様子がやけに気になったのだ。
俺はドアから半身だけ覗かせて尋ねてみた。
「・・・・本当に、今の話信じなくていいんですか?」
『ああ』
再び肯定の返事をもらえたことで、俺は無理やり心を納得させて背を向けた。
それなのに。
『・・・・信じなくていい』
扉が閉まる寸前に聞こえたのは、強い感情を押さえ込んだような低くかすれた声だった。
<11/08/21>
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