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アンデルセン -2-


企画会議をなんとか終えると、ようやく仕事が落ち着いたので定時を数時間も過ぎていたが帰宅することにした。

起こしそびれた小野寺は他の誰かが起こしておいてくれたようだが、会議から帰ってくる頃には再び死体になっていた。

「小野寺、小野寺!」

「・・・・・・・・」

何度頬を叩いても生き返る気配が無い。

そのまま放って置こうかとも思ったが、他の社員の邪魔にしかならないので仕方なしにつれて帰ることにする。

「先、あがるから。こいつもついでにつれてく」

「高野さん家でお仕置きか。律っちゃん、かわいそー」

肩に担いだ俺を見て、けたけた笑いながら木佐が茶々を入れて通りすがる。


「お前、人望無いんだな・・」

背中でぐったりしている後輩に声をかけると、

「明日の仕事に響くんで小言もそこそこにしておいてくださいよ」

エレベーターまで小野寺の荷物を運んできた美濃に釘を刺された。



会社から乗ったタクシーをおりると、あたりは真っ暗で人の気配がしなかった。

働き詰めだった小野寺の体は軽く、また痩せたのかもしれない。

「お前、ちゃんと食ってるのかよ・・・」

隣に住んでいながらほとんど頼られないことに微かな苛立ちを覚えつつひとりごちた。

ずりずり引きずりながら、なんとか自分の部屋まで連れて来るとベッドに寝かせる。

小野寺は青い顔で目が据わっていた。

「これじゃまずいな」

すきっ腹のまま寝かせるのも体に悪いと思って、ホットミルクにブランデーを数滴垂らしたものを作り、ベッドにもたれさせるようにして上体を起こした。

「ほら、飲めよ」

「・・・・・・・・」

口元まで持っていってようやく飲み物だと認識したらしい小野寺は、何も言わずにこくこくと飲み干した。

温かい飲み物が効いたのかようやく頬に赤みが戻り、据わっていた目もブランデーの酔いとともに眠そうにとろんとする。

うつらうつらする体に布団をかけてやりながら、ここ数日は働かせすぎただろうかと後悔する。

小野寺は昔から体も省みないでハイペースで物事を進めていることが多かった。


「・・・・辛いか?」

頭を撫でながら尋ねても、小野寺は目を閉じたまま何も言わない。


日ごろあれだけ減らず口を叩くのに。

今日はやけに調子が狂う。


「仕事でもするか」

持ち帰ってきたノートパソコンがたち上がるを待っていると、携帯にメールの着信が入った。

『企画書の件を話し合いたい』

横澤からの簡潔な文体が目に入る。

「横澤に電話するか・・・」

さっさと終わらせてしまおうと番号を探している間に、もぞもぞと布団が動く音がした。

どうせ寝返りでもうっているんだろう。


・・・と、思っていたのだが、どうも様子がおかしい。


苦しそうな息遣いが聞こえてくる。

「おい、大丈夫か?・・・って、うわっ」


布団をめくると、バネ仕掛けの人形のように小野寺が起き上がって抱きついてきた。

勢いのついた反動で、俺は小野寺の上に乗っかるようにしてベッドへ倒れこむ。


「        」


俺をまっすぐ見上げて小野寺は言葉を必死に搾り出そうとしているが、弱弱しくて吐息にしかならなかった。

体勢を直そうとすると、熱に浮かされたような焦点の定まらない目と痛いくらいに掴む手によって俺は動きを封じられた。

はずみで落としたケータイがフローリングの床に転がった。


「だから、何を言いたいんだよ・・?」

目を見ながら再度尋ねると、小野寺はぎゅっと服の袖を握りながら口を動かした。




『せんぱい・・・』

「・・・・律?」



『一人にしないで・・・』


口の動きでようやく読み取れた言葉は俺の庇護欲をかき立てるには十分だった。


声も出せないくらい疲れているのに。

気力を振り絞って俺にしがみつくくらい横澤に嫉妬しているのか。


今更ながら、コイツの行動はまったくもって予測できない。

明日になったらきっと意識が混濁していて覚えていないだろうが。



「・・・ここまでやっといてまだ俺の事が好きだって言わないなんて、お前も往生際が悪いよな」


言ったら泡にでもなるつもりだろうか。

焦らされるのは性に合わないが、あんな事を言われた手前今日だけは付き合ってやるのも悪くない。


「心配しなくても、ずっといてやるから」

たまには素直になれよ、と話しかける頃には、小野寺はすっかり安心してしまったようで深い眠りに落ちていた。





<11/09/09>
 

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