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はじめにメールが来なくなった。
返信が無いなんていつものことだから、きっと木佐さんも忙しいんだろうなって思って少し連絡の回数を減らしてみた。
本当は今すぐでも夜中の何時でもいいから返事が欲しかったけど。
次に電話の対応の歯切れが悪くなった。
それでも俺は彼のことが大好きだし、彼も俺の顔は好きって言ってくれてたからどこか安心していたのかもしれない。
大丈夫だ。
きっとお気楽学生の俺なんかよりもずっと忙しいだけなんだから。
そう思っていたら、ついに電話が繋がらなくなった。
番号を間違えたかな?と思って何度もかけなおしたけど、繋がらなかった。
何通も送ったメールもさっぱり帰ってくる気配がない。
どうしたんだろう?
あんなに大好きな人なのに、俺のことを好いてくれているはずなのに。
今まで何人も女の子と付き合ったけれど、大体は言い寄ってくる子からテキトーに選んでいた。
でも別れる時は反対に俺の方から切るということが多かったから油断していたんだ。
今回だって先に好きになったのは木佐さんの方なのに。
俺のこと、好きなんですよね・・・・・?
一度不安に思ったら最後、とにかく早く会いたくて、何度も通ったマンションに向かった。
立てて数年しか経っていないマンションのエレベーターはとても綺麗で、木佐さんにいつか絵を描いていいですか?って聞いたら、そんなもん書いたってしょうがないぞと言われたことを思い出した。
木佐さんがどこで喜んで、どうして泣いて、どうやって笑うのかなんて、もう知り尽くしている。
俺はあなたが思っている俺よりもずっと好きなのに。
どうしてわかってくれないんだろう。
チーン、と間の抜けたベルの音とともにエレベーターが停止した。
一本道をまっすぐ、突きあたりを右で――・・・。
「え・・?」
そしたら、玄関で木佐さんが知らない男の人と二人で立っているのが見えた。
男はにやにや笑いを浮かべて、木佐さんを口説いているようだった。
大柄な体躯をいかして、小柄な木佐さんを捕まえると、壁に押し付ける。
押さえ込まれた木佐さんは焦った顔をして、誰かに助けを求めるように必死にあたりの人影を探していた。
『ゆきな』
ちいさく開いた唇は声にならないでぱくぱくとだけ動いていた。
「 」
男が悪魔のように木佐さんに何かを囁いた。
すると、あれほど焦っていた木佐さんは、ふ・・っと体から力を抜いた。
罠にかかった蝶が、蒼穹を飛ぶ事を諦めたように、蜘蛛に全てを任せるように。
少女のようなあどけない笑みから、娼婦のような妖艶な笑みを浮かべて、男の背に手を回した。
そこまで見れば十分だった。
「木佐さん」
俺は隠れていた角から飛び出すと、ずかずか歩いて、木佐さんの頬をべしっと叩いた。
「な・・・・・・っ、何すんだてめー・・・」
木佐さんはとっても驚いた顔をして、また純真可憐な少女のような雰囲気に戻った。
それから暴れる木佐さんを家に押し込み、男は脅して帰らせる。
あとは仲直りして、そのままベッドになだれこんで、お互いを確かめた。
「ゆきな、おやすみ・・・」
「はい、おやすみなさい」
激しく求め合った後、俺の横でぎゅっとくっついたまま寝息を立てる木佐さんはあどけない表情だ。
そっと額にかかっている髪を払うと、うーんと唸って、ふにゃっと顔を緩ませる。
その笑みを見ながら、昨日の一瞬垣間見せたあの誘うような笑みと仕草を思い出す。
「ああいう目をするなんて・・・・・・」
情欲に濡れたあんな目で見られたら、誰でも抗えなくなってしまうだろう。
体だけで縛ろうとするならば、俺だってその他の男と同じくポイされてもおかしくない。
「・・・俺、雪名皇でよかった」
しかし、どうやら俺は彼にとっては心まで縛れるトクベツな存在であるようで。
性格も、体も、顔も、全て含めて彼好みに仕上げてくれた両親へしたこともない感謝をしてみた。
<11/08/14>
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