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たまにはこんなのも -1-


出勤間際の俺の目の前で雪名が笑っている。

雪名が笑うととにかくもうオーラがすごい。

「きっささーん!俺、イイコト思いついちゃいました」


だから、何を言われてもつい頷いてしまう、・・・頷かされてしまう。


「今日、俺の服着ていってくださいよー」


たとえそれがどんなことであろうとも、だ。



「でも、俺、今日は一日仕事だって・・・」

「大丈夫。俺が着せてあげますから」


するりと冷たい手が伸びてきて、パジャマ代わりに来ていたスウェットの上着が脱がされた。


「ほんっと、綺麗な肌」

「ごまかすなよ!職場でこういうのバレたら・・・」

「バレたら・・?」

雪名の手が俺の首を撫で上げ、頬に添えられる。


「木佐さんは二度とお外に出られなくなっちゃいますね。・・・それもいいけど。そしたら、俺が働こうかな」

「おまっ、・・・んっ・・」


反論はあわせた唇から忍び込んだ熱い舌に絡めとられた。

雪名と俺の水音が耳の奥で甘く反響して思わず耳を塞ぎたくなる。

さっきまで散々好き放題にヤってたくせに、まだ足りないと疼くのは雪名だけではない。

これ以上キスをしているとまた元気になってしまいそうで、自制を込めて軽く雪名の胸板を押した。


わかってますよ、とでも言うように雪名の目が細められる。

空いている手がするする器用に動いて俺に服を着せると、ちゅっと音を立てて雪名が離れた。


「やっぱり、すこし袖が長いですね。かわいい手」

くすくすと笑って雪名は俺の手を取って袖をまくった。


「・・・本当にこれで行かせるつもりなわけ?」

「そーですよ。はい、おべんとです」

「あ、りがと」


ごまかしごまかし俺にさりげなく弁当とカバンを持たせ、玄関までついてくる。


「いってらっしゃい」

ばいばいと振られた手を見たのが最後、有無を言わせぬ勢いで扉がぱたんと閉じられた。



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「あれ?木佐さん、今日の服……」


律ちゃんは天然で目ざとい。

天然と目ざといがどうして同居しているのかと聞かれると、まあ律ちゃんを見てくださいよとしか言いようがない。

いつもは新しい服にしたって全然気づかないくせに、こういう時ばかりはちょっと異常なくらいに気づいてしまうようだった。


「あ、ああ、これ?バ、バザーで売ってたんだよ。安いんだけどちょっと大きすぎるよなっ」

とにかく俺はバレないようにすることが脳内を占めていて、変なテンションで答えてしまった。

「すごくオシャレだなって思ったんですが…、あー、そういわれると、木佐さんならもうワンサイズくらい小さい方があってるかも…」

律ちゃんは俺の勢いに押されたようで、ちょっとびっくりした顔をした。

「へ?…そ、そうだったの」

別にこの服についてどうこう言いたかったわけではなかったようだ。

このままだと、早とちりしてぺらぺらと余計なことまで話してしまいそうだ。

平常心、平常心。


「はい、センスは木佐さんっていうより、むしろ美大生とかそっち系…」


平常・・・・。


「ああああああ!そ、そうなんだよ!美大の近くのバザーで、売ってたんだよ。俺はやめろって言ったんだけど、そんなら着せてあげますとかそんな風な感じ、で・・・」


身体は勝手にガターンと音高く席を立ち直立不動で硬直し、口も同様に演説が如く言い訳を並べ立ててしまう。


ハッと気づいた時には時すでに遅し。

何事かと驚いたエメラルド編集部室内中の視線が俺に集まっていた。


席を立った勢いで倒れた椅子が静かにコロコロと音をたてた。



続き
 

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