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蝋燭


最初は秋彦が好きなんだと思っていた。

なんとなく幼馴染で、ウマも合う。

俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でる大きな手が好きで、撫でられる間は張り詰めていた気持ちを少しだけ緩められた。

「宇佐見さんの代わりにしてもいいですよ」

だから、草間野分もそんなことを言って俺に近づいてくる奴の中の一人なんだと思うことにしていた。

「俺はヒロさんが好きです。好きすぎておかしくなるくらいに」

「俺はお前のこと好きじゃないぞ」


しかし口からはそんなことを言ってしまうが、本当のところはもう十分に野分のことを考えていたのだ。

生来の不器用さが相まってなかなか伝えられずにはいたが。


「別に気にしませんよ。片思いしている自分に酔っているのかも知れません。・・・もうどうやって生きていたかなんて忘れてしまいました。もうあなたの傍にいたい一心で生きているんですよ」

欲しいならなんでもあげます。

そういうと、野分は財布に始まり、大事に溜めていた通帳と印鑑、保険証、学生証もろもろをすべて俺の部屋のテーブルに並べていった。

「おまえ、頭おかしいだろ・・・」

「これはおかしいことですか?どうして?」

「どうしてって・・・」


普通、男は男を好きにならないし、ここまで入れ込まない。


「俺はあなたの為に生きていますよ」

野分は、ゆっくり俺に近づくと、目を見てしっかりと告げた。


「ねえ、ヒロさん。あなたの好きな宇佐見さんを感じさせてあげましょうか?」

「え・・・?」

あの人が好きなんでしょう?と差し出されたのは黒い布。

記憶に鮮明に秋彦との苦い思い出が呼び出される。

「お前・・それって・・」


唖然としていると、野分はそれで俺の目を覆った。


「弘樹って呼べばいいですか?」

「なにしてんだよ・・・。やめろ・・・っ!」

暴れる俺を押さえつけて悪夢のように野分は囁いた。




「おかしいなあ。あなただって同じことをしていたはずでしょう」


----------------

意識が暗転して目が覚めた。

体中が汗びっしょりだ。


「ひどい夢だ・・・」

「ヒロさん、大丈夫ですか?」

野分の遠慮がちな声とともにミネラルウォーターがそっと目の前に差し出された。

「野分・・」

それを一気に飲み干すと、部屋を見回す。

「うなされていたようだったので、起こしてしまったのですが・・・」

そこはいつもと変わらない俺の部屋で、野分は心配そうな顔で俺を眺めていた。

「あー、・・・助かった」

「いえ」

俺の声に安心したように顔をほころばせる野分。


「そんなにうなされるなんて、いったいどんな夢だったんですか?」

「なんていうか、野分が野分じゃないみたいな・・。すごく思いつめてて・・・。夢の中の俺は秋彦が諦めきれなくて、でも本当はそうじゃないんだが・・。とにかく、それで・・・」

目隠しされて犯された。

なんて、その続きはあまりに口にするには辛すぎた。


ぽつりと呟くように話す俺に根気よくつきあい、かつなにやら思案していた野分だったがようやく口を開いた。

「夢の中の俺はヒロさんになにか手渡しませんでしたか?」

「え・・・っと、確か、黒い・・・目隠し」

「目隠し・・ですか」

「ああ」

飲み終わったペットボトルのキャップを閉めると、ベッドサイドのテーブルの上にことりと置いた。

野分は置かれたペットボトルを手に取ると寝室を出て、すぐに戻ってきた。

ライトのせいで寝室の入り口からこちらに歩いてくる野分の顔はよく見えなかった。


「ヒロさん」

「なに?」




「夢のまま忘れてしまえばよかったのに」

照らし出された手には黒い布が握られており、虚ろな顔をした野分はゆっくりと俺の方に近づいてきた。





<11/09/02>

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