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※この話は、野分と篠田さんが知り合いだったらという妄想に基づいています。
花屋のバイトをしていると、必然的にいろいろな人と会う機会も増えるから、世間話に花も咲く。
閉店時間が迫り後片付けをしていると、サラリーマンと言った風体の男性が入ってきた。
「余っている花でいいから、アレンジメントしてくれない?」
店の前に飾っておきたいから、とその人は言った。
「え、と、すみません。アレンジメント用の花はあいにく売切れてしまったんですが……」
たまたま祝日だったことから結婚式や発表会が多く、花束にするための花はあらかた売り切れていた。
売れ残っているのは、何の面白みも無い観葉植物の鉢植えだけだった。
その旨を伝えると、
「ああ、それでいいや。とりあえずなんか飾っとけって言われただけだし」
たいした興味もなさそうな返事が返ってきた。
失礼なことをお聞きしますが、と尋ねると、なんでも彼は向かいの不動産屋で働いているらしい。
日ごろから目の敵にされている上司から「緑が足りない!」とのありがたいお言葉をいただいてしまい、閉店間際のこの店にかけこんできた……というわけだった。
「仕事をちゃんとやってると、上司のお小言もだんだんどうでもいい細かいところになってくるんだろうね」
お客用の椅子に腰掛けて、彼は少し疲れたように笑った。
「なんだか、お疲れみたいですね」
「ん?やっぱりわかっちゃうか」
「店じまいしながらでよければ、お話でもお聞きしましょうか?」
「追加料金じゃなければ、お願いしようかな」
俺は、鉢植えを持ちやすいように袋に詰めると、慣れた店じまいの仕度をはじめた。
「気になる子がいるんだ」
客は、テーブルに頬杖をついて話を始めた。
「その子とはね、直接話したことは無いんだ。はじめてみたのはいつだったかもう思い出せないな……。ほら、不動産屋って四六時中ひっきりなしに人が来るって仕事でもないからね。ぼんやり向かいの大学を見て一日の大半を過ごしてるわけ」
「ああ、わかりますよ。花屋もそんな日はありますし……」
相槌をうちながら、不景気だからどこもたいへんなんだなと、思ってバケツの水を捨てた。
「うん。それで、その子は毎日毎日ガードレールに座って待ってるんだ。その子にはね、好きな子がいるんだよ」
「ああ……」
「最初は、ガードレールに座って誰を待ってるんだろうなってだけだったんだ。ケータイ持ってるはずなのに、いつもいつも待ちぼうけで。今時変だろ?……それで、興味がわいたんだ」
客はそこで話を切って、俺の包んだ鉢植えを眺めた。
「鉢植え、気に入っていただけたら光栄です」
「うん、ありがとう。そうそう、このまっすぐに伸びてる感じなんだよね、その子」
ちょうどいいとのを選んでくれたねと、営業スマイル。
疲れているはずなのにこういうところは社会人はしっかりしているんだなと驚かされた。
よっぽど誰かに聞いて欲しいのか、それともほかに話す相手がいないのかわからないが、客は俺が受け取った代金をレジに入れている間にまた話し出す。
「それでね、今日ついに待ち人来たり、ってわけ。もうとってもわかりやすい子だから相手が来ると、嬉しいーって全身からこうにじみ出てるんだよね」
「よかったじゃないですか」
「うん。よかったはずなんだ。……でもね、何故か心が晴れないんだ」
不思議だね、と彼はお釣りを受け取った。
彼はゆっくり椅子から立ち上がると、心底不思議だなあという顔をして鉢植えの袋を持ち自動ドアへと向かう。
……こんなに単純なことなのに、わからないのかな?
レジにお金をしまいつつ、なんともなしにその背に尋ねてみる。
「あの、それはきっと……その人が好きなんじゃないですか?」
好きだから、気になる。
好きだから、目で追う。
そんなの誰だって無自覚のうちにしている当たり前の行動だ。
「もしそうなら、気になる人が待っている人に会えて喜んでいる様子を見て面白くないっていうのも当然だと思いますけど……」
俺の問いかけに驚いたように彼は足をとめた。
そして、彼は少し考えるように黙った後、口を開いた。
「そうかもしれないね。ラブストーリーだったら、ここから恋がはじまるかもしれない。……でも、きっとそうはならないよ」
「なぜです?」
「別に、ただそう思うだけ。それより、」
――意外とこれを見つけられたキミのほうがあの子に合っているのかもしれなかったりして、ね。
鉢植えの袋を持ち上げて、意味深な笑みを浮かべると、彼は来店していたことがまるで嘘のようにぱっと夜の闇に消えていった。
「俺、ですか……」
会ったこともないのに合うも何もないと思うけどと思いつつ、俺は今日最後の仕事である自動ドアを施錠した。
<11/07/30>
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