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一粒で二度美味しい


※ヒロさんちょっとだけ幼児化してます。ご注意ください。



小児科医をしている身としては身近で子供が無邪気に遊んでいるのはいつ見てもほほえましい。

けれど、小児病棟だから入院している子供達はどこかに疾患を抱えている。

発作が起こればとたんに顔を歪ませて苦しそうに胸を押さえている姿は出来る限り見たくないものだ。

両親が代わる代わる交代で看病している姿を見る時に、俺もこんな風に草間園に育ててもらったんだなあと思い出す。

あの時、彼らは何を考えていたんだろう。

俺が少しでもよくなるようにって心配してくれたんだろうか。



ヒロさんが原因不明の奇病とやらにかかったのは今朝の事だった。

夜勤明けの病院から戻ってくると、玄関で小柄な少年が倒れていたのだ。

「え、っと、キミ、どこから来たの?」

「・・・・・・・・・・・・」

呼びかけても応答が無く、はあはあと呼吸の音だけが大きく聞こえた。

もしかしたら、体調が悪いのではないか?

すぐさま駆け寄って体を起こすと、ひどい熱でぐったりとしていた。

「キミ、名前は?」

「かみじょう、ひろき」

かろうじてそれだけ伝えると、そのままかくんと腕にもたれて意識を失った。


「まさか・・・」


聞きたいことはたくさんあったが、とりあえず病院へ電話して大急ぎで運んでもらった。

搬送先の病院では同じような症例がいくつも確認されたらしく、なぜか宇佐見さんや、宮城教授とも遭遇した。

なんでも突発的に生じたウイルスのようなもので、普通の風邪と同じように高熱やだるさを引き起こす以外には害はないらしい。

人体を死に至らせる病ではないことがせめてもの救いだった。

しかし、その高熱を下げるための代償に感染者は見た目のみ幼児化してしまうらしい。

まったくもって今までの医学界の概念では想像もつかないような奇病だ。



「ヒロさん、大丈夫ですか・・?」

「うん」

頭をそっと撫でると子猫がそうするように小さくなってしまったヒロさんは気持ちよさそうに目を閉じた。

素直に甘えてくれる姿が愛しくてついまじまじと顔を眺めてしまう。

ヒロさんがこんなに甘えてくれるなんて、不謹慎ながらこれはかなりすばらしい病気かもしれない。

じんわり心を満たす感動を悟られないように、こほんと咳払いをすると体調を尋ねる。


「熱は、辛くないですか?」

「へーき。それより、おまえ、しごとは?」

「これが俺の仕事ですから」

「そーいうの、ショッケンランヨウっていうんだぞ」

ヒロさんは怒ったように唇を尖らせて言った。


「へええ、よく知ってるねえ。ボウヤ」

ガラリと病室の扉を開けて津森先輩が入ってきた。

「ボウヤ、じゃねーよ」

子ども扱いされたことにご立腹のヒロさんは、にやにや笑う先輩をじろりと睨んだ。

「はいはい。ごめんね」

で、具合はどうなの?と、今度は俺の方に向かって仕事の顔で聞いた。

「熱はまだかなり高いです。でも、意識がはっきりしているので先ほどよりはマシになったと思います」

「そうか、じゃ引き続き経過を見守る形でよろしく」

「わかりました」

「それじゃね、かみじょーくん」

はっと驚いてからむすっとした顔になるヒロさんにはははと笑いながら、先輩は颯爽とドアを閉めて出て行ってしまった。


「・・・・・あいつ、キライだ」

静かになった病室でヒロさんは不機嫌そうに呟いた。

「まあまあ、先輩は腕のいいお医者さんですよ」

「べつにあいつにみてもらいたくねーし。・・・・おれはのわきがいるし」

だからさっさとなおせよな!と一息にいうと、ヒロさんは少し疲れたように息を吐いた。

「ヒロさん、やっぱり体がだるいんじゃないですか?」

「・・・・・・ちょっとだけ」

「熱、見ていいですか?」

俺が額を触って熱を確かめようとすると、それを遮るようにばさっと布団をかぶってしまった。

ちらりと見えた耳が真っ赤だったので、恥ずかしかったのかなと思い、出しかけた手を引っ込める。

そのまましばらく様子を見ていると、もこっと人型に膨らんだ布団は、熱がこもって暑いのかもぞもぞ動きはじめた。

それでも暑いとは口に出さない強情なところがヒロさんらしくてつい笑みが深くなる。


「ヒロさん、どんな風邪もすぐに治す特効薬を知っていますか?」

「え?」

俺の言葉につられてひょこんと布団から覗いた顔にそっと口付ける。


ヒロさんの綺麗で大きな瞳は驚いているだろうか。

目を閉じてしまったので顔は見られなかったけれど、小さな唇を探って舌を入れると口内はひどく熱かった。

「ん・・・」

ふにふにのほっぺたに手を添えて、角度を変えるとますます深くなる。

息継ぎがうまく出来ないのか、ヒロさんは酸素を求めるように俺のほうへと自分から舌を伸ばしてくれた。

唾液を吸い上げ、舌を絡ませて、いつもしているのと同じ手順なのに、全てがどこか新鮮な気がした。


好きなようにさせてくれるのも甘えてくれるのも子供効果だろうか。

子供、といえばまだヒロさんは宇佐見さんと出会っていない頃で。

中身は大人だけれど、体だけならもしかしたらこのキスがはじめてなのかもしれないな。


「・・・・はぁ」

満足いくまでキスをして、ようやく解放するとヒロさんは大きな瞳をとろんとさせて俺の事を見上げていた。

熱がまだあるようで、頭がぼんやりしているのだろう。

「人類が始めてキスをしたのは、口から体内のウイルスを移して大切な人を病気にかかりにくくさせるためらしいですよ」

俺の解説にも、ハテナマークいっぱいできょとんとしている。

「ヒロさんにとって俺は大切ですか?」

そう言い換えるとなんとか理解できたようで、言うまでもねーよとヒロさんはそっと擦り寄ってきた。

「いつもははずかしくていえないだけで、おれはほんきでおまえのことが・・・・」


ぼふん。

急に視界を遮断するようにもくもくと煙がたち、辺りが真っ白になった。

「うわ!ヒロさん、大丈夫ですか?」

手探りであたりを探すと、

「も、どってる・・・」

すぐそばにさっきよりも少し低めの声が聞こえた。

窓を開けて煙を外に逃がすと、元に戻ったヒロさんがベッドにもたれるように座っていた。

「よかったです!」

「まったく、まいったぜ・・」

ヒロさんはふう、と息を吐くと、ごろりとベッドに寝転んだ。

呼吸も荒くなく、顔色も元に戻っている。

「熱も下がったみたいですね?」

「ああ。ホントに一時はどうなるかと思った」


時計を見ると深夜で、この大騒動が起きてちょうど丸一日が経過していたことがわかった。

本当にお騒がせなウイルスが現れたものだ。

どうして急にヒロさんが戻ったのかは皆目見当がつかないけど、とにもかくにも元に戻ってよかった。



「それで、ヒロさん。さっき言いかけていたのって・・・」

「へっ?!え・・な、なんでもねーよ。日本人なら察しろ!」

「えー、俺文系苦手なんで教えてください」

「うるさい!」

どうせならほんのすこしだけでいいから意地っ張りな部分は素直になってもいいのに、なんて事を考えてしまうのだった。





<11/08/15>

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