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ミイラとりがミイラ


「え?おまえ、彼女いんの?」

後輩には恋人がいるらしい。

むしろ恋人というよりも、そもそも大学病院の小児科なんて激務を好き好んでやってくるヤツのほうがずっと珍しいんだけど。

そんな変わり者、草間野分から色恋沙汰の話を聞けることになるとは予想もしていなかったのでかなり驚かされた。

もともとあの長身とルックスに加えて人好きする応対から、看護師のねーちゃんやら女医ウケがかなりいい。

それなのにデートや遊びのお誘いもどこ吹く風で、勉強一筋、まったく興味ありませんって風だったのだ。


「えっと、はい。四つ年上の方ですけど・・・・」

「うっわ、さすが年上キラー。写真あるんだろ!見せろよ!」

無理やり奪いとった携帯には、どこを探しても写真のフォルダには年上美人さんは見えなかった。

「オイ、どこにもいないじゃん・・・」

「え?いますよ」

ホラ、ここに、と指差された先には、ひどく不機嫌そうな若い男が腕を組んで写っていた。

眉間に皺がよっているが、とても端正な顔立ちをしていることはすぐに見て取れた。

「上條弘樹さんです」

どうですか!と言わんばかりの満面の笑みが返される。

それにどう応対していいのか困りながらも、とりあえず疑問だけはぶつけてみた。

「・・・・・ええっと、おまえってソッチ系だったわけ?」

「別に男の人が好きってわけじゃないですよ」

ヒロさんがかわいいだけですから。

それを皮切りに普段はほとんど話さない男がメロメロデレデレとノロケ話を話し出した。

ご丁寧に写真(ほとんど隠し撮り)の解説つきで。

ほんのちょっとからかってやろうと思っていたのにどこかのスイッチが入ってしまったようだった。

「それで――・・・」

「もういい、わかったわかった」

洪水のように話し続ける野分を制して、なんとか話を止めさせたタイミングでコールが入った。

「野分、ちょっと三号棟の中山さん見て来い」

「わかりました」

俺は今日は待機番なので、野分に行くように指示すると、聴診器もろもろの入った応急セットを渡す。

仕事は出来るヤツなので、すぐさま切り替えると、バタバタと新病棟のほうへと消えていった。


「野分のコイビト・・ね」

あんないい男を学生時代から6年も捕まえて離さない魅力がどこにあるのだろうか。

色白で線も細そうな、しかしかなり気難しそうな写真の被写体はいったいどんな人なのだろう。

「お近づきになってみてーな」

この時間はどうせほとんど人も来ないだろうと高を括って、窓口から少し離れたデスクに向かう。

備え付けの椅子にどさりと寄りかかると、ふいに窓口に人影が現れた。


「あの、野分・・・草間先生は、いらっしゃいますか?」

「あ」

おっかなびっくりといった様子で窓口から覗く顔は、まさにさっき見た写真の人物そのもので。

こちらもついまじまじと顔を眺めてしまった。

背丈は俺よりも少し低いくらいで、小柄とまではいかないが華奢な体つきをしていた。

顔は写真とは違って眉間にシワがないだけ、より整っていることがうかがえる。


かわいい、というより美人・・・って感じだよな。

なんて考えている間になにも喋らないこちらに困ったように、野分のコイビトさんは小さな包みを置いた。

「これ、差し入れなんですけど・・」

「あー、わかりました。今、草間は病棟の方に向かっていましておりませんので、後ほど渡しておきます」

「お手数をおかけします」

「じゃ、こちらに記帳を」

差し出したノートに書かれた名前を見ると「上條弘樹」という名前らしい。

先ほど散々聞かされたノロケ話の仕返しをしてやろうと、少し意地悪してみたくなって記帳欄を眺めながら彼に尋ねた。

「失礼ですが、草間との続柄は・・」

差し入れをなさる以上、身元をはっきりさせないと万が一ということもありますので、なんて適当にそれっぽいことを言ってみると、案の定、急に取り乱し始めた。

「ぞ、続柄、ですか?え、えー、っと、その・・兄弟というか?いや、名字が違うんですけど。友人というか、でもなくて、親族でもないんですけど・・ええっと・・・・」

あーでもないこうでもないと一人で赤くなったり青くなったりしている様子は、確かにあまりにもかわいくて。

こりゃ、野分じゃなくてもハマるなと、一人心のなかで呟いてみる。


しばらく困る様子を見て楽しもうと思っていた矢先に、

「あれ?ヒロさんじゃないですか!」

病棟に行っていた野分が応急セットをぶら下げてちょうど帰ってきた。

「今、おまえに差し入れ持ってきたとこ」

「え?差し入れですか!嬉しいです!」

にこにこと嬉しそうに話しかける野分に、少し安心したのか上條さんがほっとしたような顔をする。

いろいろと話し込みたいんだろうが、野分はまだシフトがある時間帯だ。

それを気にしているのか、少し話すとすぐに彼は玄関のほうへと向きを変えた。

「それじゃ、俺、行くから」

「もう行っちゃうんですか・・?」

「仕事、頑張れよ」

照れ隠しなのかぶっきらぼうにそれだけ言うと来た時同様に、ふいっと出て行ってしまった。


「ヒロさんは、かわいいです」

うっとりと後姿を眺める野分に、つい頷きそうになってしまう。

今時あんなに純情そうな人間がいるなんて。

俺もああいう人といたらこんなバカみたいな顔して笑えるんだろうかと考えている自分がいる。


「上條さん、俺も狙っちゃおっかなー」

「え?」

「ははっ、冗談だって」

さー、仕事仕事と言いながらも、あのはにかんだ顔が忘れられないことに気づいた。

あまりにも純粋で、一生懸命で、でも思いを伝えるためには口下手な彼にかなり興味がわいていた。


「じゃ、この差し入れは責任持って俺が食っておくから」

「あ、先輩!」


ま、どうせ俺に振り向くわけねーけど。

わかっているから尚更少し悔しくて、綺麗にラッピングされた包みからひとつ取り出すと、先輩権限でお相伴に預かった。





<11/08/16>

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