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ブロンズとツバメ -1-


※野分×弘樹で童話パロディです。元のお話からはかなり脚色してます。
 OKな方は下からどうぞ!




ある町の外れに小さな家がありました。

そこには草間野分という名前の青年が住んでいました。

彼は施設の生まれでしたが、とても頭がよかったので勉強を頑張って学校に行き、医者の免許を取得しました。

「医者は万人のためにあれ」という先生の教えに従って、日々貧しい人やケガをしている人がいたら率先して助ける事を続けていました。

けれど、貧しい人達はお金を持っていないので高い薬や医療器具はすべて彼が働いて稼いだお金で用意したものでした。

そのため人々からは素晴らしい人だ、幸せを運んでくる王子のようだ、と尊敬されていました。


そんな彼でしたが、ある日家に帰る途中で車に轢かれそうになった女の子を助けようとして足に大怪我をしてしまいました。

すぐに手当てをすれば治るキズでしたが、貧しい人に施しをしていたため彼にはお金がありませんでした。

「大丈夫、痛くないから。泣かないで」

彼は痛みを堪えてなんとか家まで帰りました。

何日もベッドで高熱と激痛に耐え、やっと起き上がれる頃には長くて綺麗な足は真っ黒に壊死していました。

頼みだったバイト先も辞めなければならなくなり、自宅で窓の景色を眺めていました。


-----------------------------------------------------------------

上條弘樹は、泣いていました。

大好きな幼馴染が自分の事を絶対に好きになることは無いということに気づいてしまったからでした。

失恋したままでは恥ずかしくて家にも帰れず、一人で町外れを歩いていました。

季節はもうすぐ秋から冬に移り変わる時期でした。

さみしくて、悲しくて、涙が止まらなくて、それを拭うことも諦めて暗い路地を歩いていると小さな家の傍まで歩いてきていました。

「ここは随分前に幸せを運ぶ王子が住んでいるとかなんとか言われてた家か・・・」

言いながら弘樹は、そんなのがいるなら俺の心のキズでも治して見せろよとつっかかっていきたい気分になっていました。

彼は元々文学が大好きなお金持ちの家の息子でしたが、親と喧嘩して勘当されしばらくは幼馴染の家にやっかいになっていました。

けれど、その幼馴染に対して一方的に失恋したことで気まずくなっていたため自暴自棄になっていたのです。


「おい!幸福の王子とやらはいるのか?」


やさぐれていてもきちんとしつけられてきた弘樹は、木の扉をコンコンとノックすると中の反応を待ちました。

待っている間に窓から中を覗いてみると、中は真っ暗で人の気配がしませんでした。


なので、どうせウワサは嘘に決まっていると決め付けて返事など期待していなかったのですが・・・、




「どなたですか?」


しばらく経ってもう諦めようかと思った時、中から男の声が聞こえてきました。

続いて、こほんこほんという軽い咳の音がしました。


弘樹は驚いて声を聞き漏らさないように扉に耳を近づけました。


「お、俺は上條弘樹。えっと、・・・お前が何でも治せるって聞いて来た」

「ああ、患者さんですか」

男の声の対応から弘樹はドアが開くのかと思って半歩身を引いて待っていましたが、開く様子がありません。


「俺は動けないので、そのままお入りください。カギは開いています」

そんな弘樹の様子を察したのか、おだやかな男の声はどうぞ、と促します。


「ああ、わかった。・・・お邪魔、します」

おっかなびっくり玄関先で靴の泥を落とすと、弘樹は古びた扉を開けました。



「寒っ・・・」


ドアの向こうは外よりも冷え切っていました。

テーブルには空っぽの食器とカラカラに乾いたパンのかけらが少し、そして蜀台に刺さっている蝋燭はとても小さく火も消えていました。

部屋の半分にもなるベッドには大柄の青年が横たわっていました。

青年は黒のタートルネックにズボンを履いていましたが、膝から下が幽霊のように無くなっていました。


「こんな形でごめんなさい。今日は体の具合があまり良くなくて・・・」

彼は玄関で立ち往生している弘樹を呼ぶと、ベッドの近くのイスに座るように言いました。


「アンタが幸福の王子サマってヤツか」


胡散臭そうな顔で弘樹が青年に尋ねると、


「・・・あなたはとても綺麗ですね」

彼は弘樹の問いに答えるどころか、うっとりと目を細めて明後日の方向に返事をしました。


「は、はぁ?お前何言ってんの?」

「泣いて、いたんですか」

青年はベッドサイドまで移動すると、椅子に腰掛ける弘樹の眦にそうっと左手をあてました。

「な、なにすんだよっ」

驚いたのは弘樹の方で、普段からスキンシップが苦手な彼は野生動物のようにどきどきばくばくと緊張で鼓動が早鐘のようでした。

けれども、彼は毛を逆立てて威嚇するような弘樹にも動じないで雫をふき取ると指を口元に持って行きぺろりと舐めて、しょっぱいですね、と顔を綻ばせました。


「俺は草間野分といいます。すみませんがもう一度お名前を?」

「・・・上條弘樹」

初対面なのに奇妙奇天烈な野分の態度に弘樹はすっかり警戒態勢で、整った顔を仏頂面と眉間の皺でコーティングしていまいました。

「弘樹・・さん。じゃあヒロさんって呼びますね。俺は野分って呼んでください」

「は?なんでお前にそんな名前で呼ばれなきゃなんねーんだよ!」

弘樹は彼にあだ名をつけられたことを屈辱と感じるよりも、相手のペースでどんどん物事が進められていくことに戸惑っているようでした。

大声をあげる弘樹の瞳を静かに見つめながら、安心させるように野分が言います。

「ところで、ヒロさんは俺に何の治療を頼みにいらしたんですか?」

体が悪いようには見えませんが・・と、不思議そうな野分の声に弘樹は慌てました。


治してもらいたいところは失恋した心です、とは、海より深くも山よりも高いプライドで言えません。


「そっ、その、大騒ぎするほどのケガでもないから・・・」

「さっき泣いていましたけど痛いところがあったんじゃないんですか?」

「へーきだ!」

「そうですか・・・・」


虚勢を張る弘樹を彼はじっと見ていましたが、さすがは元名医なだけあり、簡単に答えがわかったようでした。


「外傷なし。唇は強く噛まれたことで少し血が滲んでいます。それに加えて、目が腫れるくらい泣いている。


・・・これは、失恋によるショック症状ですね」


そうでしょ?とにこにこ笑う野分を弘樹は真っ赤になって睨みつけました。


「・・・帰るっ!てめーの酔狂に付き合ってらんねー」

「帰れるんですか?宇佐見さんのところになんて・・・」

がたんと音を立てて椅子から立ち上がった弘樹に野分が冷静な声で尋ねます。


頭に血が上った弘樹でもその声が指す意味を理解することくらいはできました。

いきおいで飛び出してきた以上、簡単には戻れないことくらいは。


「っうるさい!寝床はどこか探す!あと、なんで秋彦を知ってるんだよ!」

逆ギレ状態でベッドを振り返る弘樹に野分が種明かしをしました。


「恥ずかしながら、この足になってから俺は毎日暇でして・・。こうやって窓から町の様子を見ていたんですよ。でも、ここ数日体調が優れなくて・・・」

医者の不養生って知ってます?と苦笑しました。

「だから、俺一人では何も出来ないんです。・・・そこで提案なんですが、診察料代わりに今日、俺の家に泊まって行かれませんか?ちょうどこのベッドも大きいんで、二人なら寝られると思うんですよ」

「はぁ?」

「明日ひとつだけ俺の頼みを聞いてくれたら、帰っていただいて結構ですから」


お願いしますと頼む姿があまりに熱心で、その上に足のこともあったので、弘樹はつい押し切られるようにして一晩その家に泊めてもらう事になりました。


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