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「本当は、あなたとお話なんてしたくないんですが……」
お呼びだてして申し訳ありませんからはじまった挨拶は、人当たりのよさそうな口調とは裏腹に無礼千万な言葉で綴られていく。
「これ以上あなたに振り回されるあの人を見ていられません。もう単刀直入に言います。宇佐見さん、ヒロさんと別れてください」
「…………」
別れるも何も付き合ってすらいないのだが、と訂正する間もなく、向かいの席の男はまくし立てる。
「ヒロさんはいっつもいっつも暇さえあれば宇佐見さんのことばかりです。確かに俺はご近所でも幼馴染でもありませんけど、それでも俺はあの人のトクベツでいたいんです」
ここまで一息に言ってのけると、草間野分は冷めたお茶で喉を潤した。
彼に合わせて自分も冷めたコーヒーを口に運ぶ。
インスタント独特の風味が口に広がって、非常に不愉快だ。
「小さいときはあーだったとかこーだったとか言われるたびに埋められない年月がひしひし伝わってきて……」
しまいには、宇佐見さんはどんなに苦しいかなんてわからないんです、と自分の言葉にめそめそうつうつする始末。
大きい図体をしている割に嫉妬深くて子供っぽい男だ。
弘樹もなんでこんな奴を……とも思う反面、弘樹の性格を考えると頷けた。
昔からなんだかんだで世話好きな奴だったし、一度決めたらやり通さない事には気がすまない。
第一に、人付き合いがそこまで得意ではないといっていても一度心を許した相手にあいつはかなり甘いのだ。
そんなことはいつも一緒にいない俺にだってわかることだろうに。
「とりあえず、言いたいことはわかった」
大仰に溜息を吐いて、組んでいた腕を解いて相手の方を向き直る。
俺の言葉を待つように、草間野分とやらも口を噤んでまっすぐに顔をあげた。
「俺の方からは、弘樹にもう干渉しない」
ただし、向こうから来た場合に関しては別だが、と友人としての最低の連絡関係だけはとっておく。
「俺だって弘樹の友人であることまでは、放棄したくないからな」
「それは、もちろんわかっています」
本当にわかっているのか?と問いたくなるほどに瞳は不穏な輝きをみせてはいたが、なんとか納得してくれたようだ。
「今日はすみませんでした。それでは……」
「おい」
会計を済ませ、去り際の背中をつい呼び止める。
「弘樹を、幸せにしてやれ」
今にして思えばどうして自分でもこんなことを言ってしまったのか思い出せない。
しかし、それだけ自然に出てきた言葉でもあるということだった。
「……言われなくとも」
一瞬驚いたように見開かれた黒い瞳は、すぐに挑戦的な笑みとともに細められた。
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「ウサギさんおかえり――ってどうしたの?」
帰宅すると出迎えた美咲が不思議そうな顔で見上げてくる。
「……何がだ?」
「目が真っ赤だから、ウサギさん泣いてるのかと思った」
ほら、と差し出された手鏡には確かに赤く腫れたような自分の目が映っていた。
「そうか……。親友が嫁いだからかもしれないな」
「と、嫁いだ?!」
いつ?ご祝儀とか大丈夫なの?!と大騒ぎする美咲をぎゅっと抱きしめる。
背中越しにリビングのコルクボードにある幼少期の写真が目に入った。
あれから十数年。
俺たちもずいぶん大きくなったものだな。
写真の中の弘樹はいつまでも子供のまま、無邪気な笑みを浮かべていた。
ずっとそばにいてくれてありがとう。
そして、
「おめでとう」
蚊に刺されて怒り心頭といった様子で眉間に寄せている皺さえもなぜだか無性に愛しく見えた。
<11/07/24>
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