忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ありがとうさようなら -2-

ありがとうさようなら-1-と話が繋がっています。先にそちらをお読みください。




自室でコーヒーを飲みながら、買ってきたばかりの文献を読んでいると、玄関の方がドタバタとなにやら騒がしい。

他所の家か、それとも酔っ払いが紛れ込んできたのか。

そういえばカギをかけ忘れたと思い出して玄関の方へ歩いていくと、靴を乱暴に脱ぎ捨てた忍が鉄砲玉のように飛びついてきた。


「わ、忍?!……どうした」

いつものならどうしてこないだのなんだのと怒鳴り散らす忍が、やけにおとなしかった。

「…………」

「…………」

聞いても何も答えずに、俺のワイシャツをぎゅっと握ったままだ。

シャツを通して伝わる感覚で、俺は忍が泣いていることを感じ取った。


「どした?ユーレイでも出たか?」

一緒には寝てやれないけどな、と笑いかけると、忍はバネ仕掛けの人形のように顔を上げた。


「出た……、ユーレイ」

「は?」

「だから、出たんだ。『先生』のユーレイが……」


真剣な目をして事の仔細を語る忍に圧倒されて、思わずたじろぐ。

「いや、お前……いくらなんでもそりゃ笑えねーぞ」

「『ありがと』って言ってた。『ごめんね』も。そんなこと、言わせたくなんか無かったのに……」

ごめん宮城、本当にごめん、と、いつもの威勢のいい声は小さくしぼんで消えた。

ワイシャツを握る手が小刻みに震えていることから、忍が自分をひどく責めていることがなんとなく伝わった。


「もういいんだ。そういう人なんだよ、昔から男を泣かせてばかりの罪作りな女性なんだ」


だから、お前が泣く必要なんかない。

あの人のためにはもう十分に俺が泣いたから。


俺はそっと忍の目じりに手をあてて、今にも零れそうな雫を掬い取る。

驚いたように大きな瞳が俺を見つめた。


こんなことをしてしまうなんて自分も年をとったなと感じる。

泣いてる忍を責める気は少しも起きなかった。

それどころか……。


「……泣いてるお前もかわいいとか思ってんだから、俺も末期だよな」


一瞬の後、真っ赤になった忍がバカ宮城!と盛大に叫び、殴り、暴れた。


それに応戦しながら、

「ユーレイ怖いなら、今夜は一緒の布団で寝るか」

と告げると、途端におとなしくなって「……枕、とってくる」とか言っちゃう忍はやはりかわいいと思う。

 

――先生。

俺は、あなたのことは忘れない。


でも今ひと時は、こいつと一緒にいるときだけは、あなたを忘れる事を許してください。

 

忍の手からひらりと落ちた写真の『先生』は、静かな笑みをたたえていた。




<11/07/28>
 

拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © Angelica : All rights reserved

「Angelica」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]