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※夢十夜のオマージュ作品です。原作ファンでNG!という方はご注意ください。
こんな夢を見た。
明晰夢を見るのははじめてだった。
どんな夢でも見ている間の意識はおろか記憶にさえ残らないことが多いというのに。
夢の中の俺はまだ年端も行かない小さな子供だった。
身体はもちろん、心も小さかった。
そんな俺には広大な敷地の宇佐見家はひどく不釣合いな場所だった。
人が大勢出入りするのに俺の居場所はどこにも無い。
俺は生きていくために必要不可欠な何かを欠いたまま、ゆっくり歪んで育っていた。
あれは肌寒かったから11月に入ったばかりだろうか。
昔から働いていた家政婦が故郷に帰るからと職を辞した。
その人はもう高齢でちょうど潮時だった。
家を去る日、父に挨拶を終えた彼女が出て行く姿を門まで見送った。
大きな鉄扉の脇に立った彼女は、何も言わずについて来た俺にこう言った。
「秋彦坊ちゃん、夢を見たことはありますか?」
俺は見たことが無かったから、無いよと答えた。
「それじゃあいいことを教えてあげましょう」
老婆は万物を救うために書かれた書物を読むように、はたまた永遠に解けない呪いをかけるように俺に向かってこう言った。
「 」
俺はそこで目が覚めた。
やけに静かな夜だった。
あまりに月が綺麗だったから、すぐ隣で眠っている美咲をそっと抱き上げて車に乗せた。
バイトを終えて着のみ着のままベッドでぐっすり眠っていた美咲は、ちょっとやそっとの振動では起きる気配が無かった。
真夜中のドライブは何度かしたことはあったけれど、草木も眠る丑三つ時はさすがに無かった。
東京は夜でも明るくて、ひっきりなしに眩しいライトが目に入る。
その度に美咲が顔を隠して身体を小さく丸めるので、眩しい光の届かない細い路地へとハンドルを切った。
どこでもよいけれど、どこでもないところを目指してアテもなく走った。
カーナビが無ければ家がどこかも忘れるくらい遠くまで来た時に、かすかに揺れる車の中で美咲の声が小さく聞こえた。
「ウサギさん、が・・・」
寝息が聞こえるから起きていることは無いだろうけれど、美咲が寝言を言うのは珍しかった。
しかも、「が」ということはまだ続きがあるのだろうか。
「なんだ?」
ハンドルを操作しながら答える。
車はもう人気の少ない山道を走っていた。
「すき」
唐突に飛び出した二文字の言葉は俺を驚かせるのに十分な威力を伴なっていた。
前を向いていた顔をつい反射的に美咲の方に向けてしまう。
熟睡しているのか、だらりと助手席から垂れている手は小さくて、子供のようにぎゅっと握り締められていた。
「・・・ガキのくせに」
嬉しくて、舞い上がりそうになる自分が照れくさくて、すこし口角を上げたまま前を向きなおす。
その頃には、夢のことなど忘れていたのだ。
「秋彦坊ちゃんにいいことを教えてあげますね」
あの時老婆がなんと言っていたのか。
「寝言に返事をすると、死んでしまいますよ」
気づいた時には遅すぎた。
崩れた山道にあわせて車もしずかに崖下へと滑り落ちていった。
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